「あーもう!!!けえへんやん!!」

洋一がうわぁっと叫び、カウンターを勢いよく叩く。

一番初めにカフェに来店し、かれこれ4時間は待っている。

「洋一、うるさいです」

「もう夜なんだし考えなよ~」

洋一と打って変わって冷静な二人は、洋一を宥めた。

現在、夜の9時。

言いだしっぺの夕緋が来ない、というありえない状況に、一同驚きを隠せずに待っていた。

長く続く沈黙に耐え切れず、また洋一は叫んだ。

「あ~、もうやめや、やめ!!今更こんなことしてなんになるん?こんなことゆうてる俺が一番初めに来たん言うんに、なんで夕緋はけへんの!?俺、帰るから」

そういって洋一は立ち上がった。

誰も止めることなく、洋一はカフェのドアを開け、大きい音を立てて出て行った。

「敬矢...どうするの...?洋一あのままじゃだめだよ」

震えそうなか細い声で真尋は敬矢に話しかける。

「大丈夫です。洋一はきっと諦めてません。それに、集合時間に遅れてしまった僕たちが洋一の行動に口は挟めませんから」

分かったような口ぶりで、敬矢は目線を逸らし話した。

少し笑い混じりだったので、会えただけでも嬉しかったのだろう。

「...ねえ、待ってる?ここで...明日になったらカフェは開いちゃうし、ずっと待ってるってことはできないよ?」

「そうですね、でも今の僕たちにできることはここで夕緋を待つことです。明日になれば洋一が何か教えてくれると思います」

「敬矢が憶測だけでしゃべるのって珍しいね?」

「昔からの友達の考えることは、ある程度把握しているつもりですから」

敬矢はにこりと笑った。

真尋は気まずそうに苦笑いを浮かべると、自分は昔からの友達なのだろうか、と少し不安に思った。

 

 

 

「仲直りしないんですか?」

「後悔すると思いますよ...」

そんな言葉が頭の中でエコーする。

今日は12月16日。話をするとかなんとか言っていた日。

集合時間を決めていなかった。来るわけないじゃないか。

そんなことを考えながら、カフェへ行く道を諦め、歩道に座っていた。

プルルルプルルル

静かな道路に着信音が響き渡る。

どうせ、三人の中の誰かだろうと思っていたので電話に出るのは気が引けたが、液晶に目をやると、「公衆電話」の文字が映っていた。

咄嗟に着信ボタンを押すと、挨拶もなしに、「夕緋か」という聞き慣れた声が聞こえた。

「こんばんは。匿名希望で頼むわ」

「匿名希望も何も、分かるって」

笑い混じりに話していると、洋一は、今までに聞いたこともない冷酷な声を放った。

「今日、何でけえへんかったん。俺たち、何時間待ってたと思うてるわけ?」

「それは...」

「お前さ、グループの奴らに何か言われたやろ?その言葉、無駄にしとるで。夕緋は仲間の言葉を蔑ろにする、そんなやつやったか?」

「...」

洋一は的確な言葉で俺を追い詰めてくる。

分かってる、分かってる、行かなきゃいけなかったって。でも、足が。行かせてくれなかったんだ。

「無意識が勝った」

「はぁ?」

俺がぼそっと呟く。

「だから、無意識が意識に勝ったんだよ...!!意識では行かなきゃって思ってるけど、無意識に昔のことを思い出して、足が、動かなくて...!!」

震えた声で叫ぶ。自分でも何を言っているか分からない。今の俺には勢いしかなかった。

「そんなん言い訳や!!どアホ!!無意識に勝たなきゃあかんとこやろ!!!お前、仲直りしたいんやろう!?」

俺の倍の大きさで洋一は叫んだ、電話越しなのにまるで隣で説教されてるみたいだ。

洋一の言うことにしては、図星だし、正論だ。言い返すなんてできない。

なんて言ったらいいんだろう。

考えるまもなく、洋一はまた話し出した。

「12月の20日にまた、話そうと思ってる。おんなじところで待ってるで。時間もないし切る。じゃあ」

ツーツーと電話が切れた。