「みんな最近仲良しよね」

「そうですね、グループ関係なく仲睦まじいですね」

 カフェに居座る俺と敬矢。皐月さんもイスに腰掛けて話している。

「ところで、最近夕緋見らんな」

「そうよね、あの子のことだし家でゲームしてんじゃない?」

 ふと気になったことを問いかけてみると、皐月さんは存外いつものように軽く言った。

でもここ最近夕緋の様子をまったくといっていいほど見ない。他のグループの奴らと楽しく何やかんやしているうちに夕緋は一人ぼっちになったのかもしれない。昔のこともあったので酷くそう思えて仕方ない。

「あの日からやろ、見らんようになったの」

「仲直りしようと集まった日、ですよね」

「あら、あの日からだったの...?最近日が経つのが早いようで遅いようで、最近のことだと思っていたけどもうずいぶん経つのよね」

 あの日は12月20日。寒い冬の日。しかしもう3月。季節の移ろいを感じるようになったころ。正直、三ヶ月もまえのことを最近のことと感じる皐月さんの気がしれない。

「なあ、夕緋、遭難とかしてないよな」

「ないでしょう。夕緋に限ってそんなこと」

「でもそういえば最近ここにもこないし、もしかしたらあるかもしれないわね」

「ちょ、二人とも...そんな不気味なこと言わないでください」

 敬矢は小刻みに震えて怖がっている、身内のことだしそうなるのも仕方がない。

「ん...じゃあ家か...」

「行ってみる?」

 

 

 軽快に話は進み、夕緋の家、アパート二階へと向かうことにした。

三人で突撃するのだが部屋の番号を三人ともうろ覚え。確信がないが202号室へと足を運んだ。

「だ、誰がインターホン押す?」

「え、僕はやですよ」

「はぁ、そんなんでもめんと俺が押す」

「え」

ピンポーンと明るくチャイムが鳴った。部屋の中でばたばたとこちらへ向かう音がする。

「とりあえず生きとるな」

「そうみたいですね」

 安否確認をしているとそんなに待たずにドアが開いた。

「はい、ってえ...」

「よぉ」

「こんにちは」

「久しぶりね~」

 元気のないげっそりした夕緋が出てきた。こちらの顔も見ずにええなんて失礼過ぎるがそういうところが夕緋だなと懐かしく思う。

「なんで来たの...」

「最近見んかったから」

「...」

「真尋は?」

「二日酔いでゲロと血ぃ吐いておうち待機や」

「お大事にって言っといて、じゃ」

 ちょこっと喋ると夕緋はそっけなく最後まで目もあわせずに家のなかへと入っていった。随分髪が伸びていて、かなりぬれたような髪質だった。きっと風呂に入っていない。ちらっと見えた目元も黒ずんでいて眠れていない。そんな様子が伺えた。

「大丈夫かアイツ」

「結構やつれてましたね」

何か疲れてるなら私が面倒見るのに...

「面倒見られたくないんちゃう」

「え、それどういう...!!」

「ちゃうちゃう、そんなん意味じゃなくて、誰にも会いたくない」

 怒る皐月さんを適当に宥める。今の夕緋の様子から分析すると確実にこれだけはいえた。

「それはやばいですね」

「うん。結構」

「こりゃ、夕緋を外に出してやらんとあかんなぁ」

「またグループの皆にこれ教えて夕ちゃんを元気付けてあげよう!」

 さっきまで怒っていた皐月さんは早速スマートフォンを取り出す。そんな明るい姿を横目に俺と敬矢は目をばっちり合わせてふっと噴出した。

「こんなこと前にもあった気がするな」

 三人で騒ぎながらアパートを後にした。